明暗

今回は、夏目漱石氏の最大の長編であり未完の名作である、明暗を紹介したいと思います。大先生の遺作という事で、はりきっていきたいと思います。

 

あらすじ

勤め先の社長夫人の仲立ちで現在の妻お延と結婚し、平凡な毎日を送る津田には、お延と知り合う前に将来を誓い合った清子という女性がいた。ある日突然津田を捨て、自分の友人に嫁いでいった清子が、一人温泉場に滞在していることを知った津田は、秘かに彼女の元へと向かった……。濃密な人間ドラマの中にエゴイズムのゆくすえを描いて、日本近代小説の最高峰となった漱石未完の絶筆。  Amazon内容紹介より

 

これはたった10日程度の物語です。主人公の津田が入院して、妹と喧嘩して、友人に金貸して、妻に嘘ついて元カノに会いに行く。それだけの物語です。未完のため結論はありません。ですが、この超大作(実際、結構長い)が名作といわれる所以は、ただの遺作というだけに留まらず、何かあるのです。

 

 

主人公の津田と、その妻のお延

容姿端麗なお延と文化人である津田は、傍から見たらよい夫婦です。現代で言ったらいわゆる勝ち組です。しかし、そんなリア充の彼らにもいろいろ悩みはあります。実は津田は自分の稼ぎでは到底やっていけないので、親から仕送りを受けています。それなしではやっていけないのですが、その事実を妻に正直に言えません。妻にがっかりされるのが怖いのです。

さらにこの主人公、津田にはひとつ妻に内緒にしている秘密ごとがあるのです。それは清子という婚約者がいたこと。彼はこの婚約者とは分かれて、お互い結婚し別々に暮らしています。ですが、その別れがまだ納得いっておらず(むしろなぜ別れたかよく分かっておらず)、それが心の中にずっと引っかかっています。その事自身、津田にはわかっていないのです。妹との喧嘩を期に、津田に清子を引き合わせた人物が現れます。そして、津田とその妻について言及します。

津田は、周囲からはお延と結婚して変わったと思われています。(お延一筋になり、自分や周囲の大切さを失っている)しかし、津田自身はそれを否定する反面、実はお延の事をそれ程思っていない。彼女はそう言い当てます。まさにこれはその通りで、周りに思われている事をもっともらしく反対するのだけど、自分の本心ではそう思っていないという事、あると思います。

彼女はその原因が、元婚約者の清子を忘れていないからだとし、清子に再度会って、別れの原因をはっきりさせてくることを望みます。そして清子が一人で泊まっている温泉旅館を津田に教え、旅費さえ渡します。

 

 

津田と清子の恋愛

津田は清子の泊まっている温泉旅館に湯治(という清子に会うための取ってつけた言い訳)に行きます。そして清子に出会います。清子は大変驚きましたが、津田と向かい合って話し始めると昔の面影があり、津田に昔を思い出させます。指にはめられた2つの指輪を除いて、二人は過去に戻ったわけです。さてこのあと津田と清子の関係がはっきりするのですが、運命は漱石にそこまで描かせませんでした。この温泉旅館で何が訪れるはずだったのか、今ではもはや分からないのです。

この続編として別の著者が「続・明暗」として出版しており、大変評判がいいのですが、どうも手に取る気にはなりません。私は未完の作品に宿る美しさに惹かれます。ルーブル美術館に所蔵されているサモトラケのニケやミロのヴィーナスと同様、この作品には未完の美しさがあるのです。

 

 

夏目漱石、後期の作品

夏目漱石の有名作といえば、教科書にも載ってる「こゝろ」があります。前半の平坦な筆使いとは対照に、後半先生の熱い感情を記したこの物語は、間違いなく彼の代表作です。彼はこの大傑作を書いた後、「硝子戸の中」というエッセイ集を出版します。これは、病床に倒れている彼自身の近況を綴ったものですが、人と人とのやり取りや息遣いがリアルで、まるで小説のように読める作品です。そのあと「道草」を出版するのですが、これは彼自身が金のやりくりに困っていたという事もあり、金、金、金の小説です。後読感も悪く、私は嫌いな小説です。その後彼は本作「明暗」の執筆中に息を引き取ります。私はこれこそが漱石文学の傑作だと思います。順に漱石の著作を追って来て、最後に「明暗」を読み終えたとき、あぁ、これが漱石の書きたかった事なんだと思いました。

 

 

夏目漱石の小説 お札に顔が載っている理由

彼の顔がお札(日本銀行券)に載っている理由、それは彼が日本人を書いたからだと思います。彼の作品を読んで、一つ特徴的だと思うことは、彼は行間を書くのが非常にうまいです。実際には言ってないのに、その空気が伝わります。さらにその空気は登場人物と登場人物との間にある空気です。それを書くのが非常にうまいのです。茂木さんがある本で紹介していた、硝子戸の中の一節があります。

 

次の曲がり角へ来たとき女は「先生に送っていただくのは光栄で御座います」と又云った。私は「本当に光栄と思いますか」と真面目に尋ねた。女は簡単に「思います」とはっきり答えた。私は「そんなら死なずに生きていらっしゃい」と云った。私は女がこの言葉をどう解釈したか知らない。私はそれから一丁ばかり行って、又宅(うち)の方へ引き返したのである。

 

この「間」こそが漱石の特徴だと思います。それは日本人にしかないものです。それを見事に捉えて表現した漱石だからこそ、彼は日本の顔であるお札に顔が載るべき人物なのでしょう。

 

 

まずは、KindleをDLして、無料で読みましょう

夏目漱石のような日本文学を読むとき、青空文庫という素晴らしいものがあります。これは、著作権が切れた作品に対して有志が文章を書き起こして、無料で公開しているものです。Kindleではこの青空文庫も無料で読めるので、まずは無料で読みましょう。素晴らしい作品に出会ったら、それを文庫で買って宝物にするなり、熟読してボロボロにするなりすればいいと思います。

 

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さて、如何でしたでしょうか?明暗の感想を書くつもりが、夏目漱石自身に対する自分の気持ちを書いてしまいました。いずれにしろ、漱石は偉大だし、明暗は大傑作だと思います。是非、未読の方は一読をお勧めします。

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

元シンガポール在住のエンジニア。趣味は旅行と、本を読むことと、走ることと、ヨガと、サーフィンと、音楽を聞くことと、カメラと。。。何かに依存せずに自分を持っている人を尊敬します。